光り輝く、君のモーメント

ロマンスに溺れて、夢

  これはほんの少しだけ前の話、 『やっと君が主人公になる夏が来る』 なんて微笑んでいたのに、気付けばもう私にとっての夏は終わりを迎えていて、毎晩目を瞑ればあの日の思い出がまるで、死ぬ前に見る走馬灯のように鮮やかに蘇っては私の心に浸透して蝕んでいく。これはきっと、夢のような、夢の話。

 

  本の虫のように過ごしていた私は昔から夏は尽く嫌いだった。蝉はひっきりなしに鳴くし、普段はきらきらと輝く太陽も、夏になれば私の肌をジリジリと犯していく。生暖かい空気と生温い風には気力を奪われる。でもそんな夏だって、無意味に繰り返す毎日だって、君が笑ってくれるおかげで少しずつ好きになれたような気がする。

その理由は、決して大きくはないけれど無限大の夢と愛で溢れたあの場所で、笑顔の魔法を振り撒く君が、大好きな仲間たちと笑い合う君が其処に居るから。

その姿を見るだけで、胸が高鳴る音が、恋に堕ちる音がした。君と存在しない『永遠』を、今だけ知らないフリをして信じてみたい。アイドルに明日が、未来が、永遠が約束されていないなんてことは、中身の無い脳味噌を持った私でもこれだけ生きていれば分かる。どうして急に『永遠を捧げてみたい』だとか言い出したのか、正直逆立ちしたって分からない。

 

  では、ほんの少しばかりのロマンスに溺れてみて。

小学生の夏休みの課題にもあった『夏の大三角形』。このうちのアルタイルとベガが、彦星と織姫。この2つの星座の距離はおよそ14.5光年であり、アインシュタイン相対性理論に基づくと物質が光速を超えて移動するのは不可能である。例え彦星と織姫が互いに光速で移動したとしても中間地点で会えるのでさえ何年も後の話と言える。

堅い物理法則は1度頭の片隅に置いてみて、彦星と織姫を星ではなくヒトと同じ寿命だと仮定して仮に1年に1度だけ会えるとする。結論、3.2秒の周期で1回、それも0.0086秒だけ愛を伝えることができる。この僅かな時間で、彦星と織姫は『愛しています』を伝えることができるのか。もしも私が織姫だとして、君に『好きだ』と伝えられるのか。きっと私は、ロマンを優先してこの声が枯れるまで『愛しています』と叫び続けるだろう。

 

  もしも君が、明日大きな事故にあったら。もしも君が、明日この世界から消えてしまったら。もしも君に、『愛してる』を伝えることが出来ない日が訪れたら。きっと私には何も残らない。紙っぺらになってしまったチケットと無数のグッズや写真。そして断片的な記憶だけが私の中に残って切り刻まれる。私の視線を、心を、奪っては一生離してくれない。

 

  それでも、雨はいつか止むように、濡れたハンカチがいつかは乾くように、思い出と大切なものだけを何処かで落としたりしないように両腕で抱き締めて、私は前を向くよ。君がまた笑うその日まで。

 

  拝啓、君へ。

  元気でやっていますか。ご飯は3食ちゃんと食べましたか。ふかふかの布団で毎晩眠れていますか。

  私は、元気にしています。ところで今夜は一段と月が綺麗ですね。今宵も良い夢が見られることを願っています。ご自愛ください。                                                                          

 

 

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