名前のない想い
唐突にハイボールが飲みたかった。
時刻は23時。
わたしの身体に無数のトゲを刺すような冷たい空気を吸い込んだ。
これが、「寒い」というものか。
全身のトゲを素早く抜くべく、
車に乗り込んでキーを回すと違和感があった。
助手席だった。
いつもより大幅に後ろに引かれた座席は、
まるで貴方がそこに居たことを証明するかのようで、私を酷く動揺させた。
心地良くて眠ってしまいそうな貴方の柔軟剤の香りがするような気がしたけれど、
私の香水で寂しい気持ちまでも覆い隠して、
アクセルを少し踏み込んだ。
何かを企んでいるその表情も、
声を上げて笑う姿も
全てを愛おしいと感じているし、
少し感性に違いがあって
不思議な価値観で驚かされるところさえも、
貴方を形容する1つの部分として大切だと感じている。安っぽい言葉に言い換えるとすれば、恐らく『好き』とかそういう気持ちに近い。
彼は自己否定の酷い私が生きてい易いように、
太陽のような温かい言葉をかけてくれる
優しさがいつもあったのだろう。
その度に、誰かに言われたことを思い出す。
『星の数ほど男性は居るけれど、
太陽はたった1つしか無いのよ、貴方にもすぐ分かるわ。』